2007(平成19)8月「ワシントン・タイムズ」紙は、米軍関係者の話として、米太平洋軍(司令部ホノルル)のキーティング司令官は、2007(平成19)5月に中国を訪問した際、会談した中国海軍幹部から、ハワイを基点として米中が太平洋の東西を「分割管理」する構想を提案されたことを報道した。
この中国の提案、それに対するアメリカ側での一部の賛同も、「地政学」と呼ばれる分野の研究に基づけば理解できる。
世界各国の外交・国防戦略は、おおむね「地政学」に基づいているからである。
我国の外交・国防の常識が「世界の非常識」になりがちなのは、戦後、アメリカに地政学の研究を禁じられ、忘れ去ってしまったからである。
日本が世界に伍してやっていくためには、地政学を学ぶ必要がある。イギリスのレディング大学大学院で地政学を研究している奥山真司氏の考察に基づき、中国の動きと民主党の関りを考える。
1991年のソ連崩壊に伴う米ソ冷戦の終結とそれに伴うロシアとの関係改善により、中国の「仮想敵国」は台湾を支援するアメリカへと替わった。
九州から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島と続くラインは、米国を盟主とするシーパワー陣営の勢力範囲である。
そのため、中国は、このライン(第一列島線)を対米防衛線と設定し、有事にはこの範囲内の制海権・制空権を確保、米太平洋艦隊の進出を阻止できる態勢を構築し、中国の領土と海洋権益の保全を目指した。
この中国の戦略にとって、沖縄駐留米軍と台湾軍は、まさに「目の上のたんこぶ」なのである。
当初、この計画は「2010年頃までに達成させる」ものとされていたが、艦艇の建造が遅れ、現在では「2015年までに達成する」とされている。
フィリピンでは、反米運動の結果、1992年に米軍はフィリピンから全軍撤退した。
その直後、中国は、フィリピンのミスチーフ環礁の領有を宣言、占拠した。
ミスチーフ環礁では、現在、対空砲や対艦砲、ヘリポートまで設置され、大型艦船停泊が可能な突堤も建設されたことが写真確認されている。フィリピンの抗議に対して、中国は「漁民の避難用施設」と強弁している。
そして、次に狙っているのが台湾と尖閣列島、そして沖縄である。
2020年には、伊豆諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアと続く「第二列島線」までを勢力圏とし、米海軍に対抗できる海軍の建設を目論んでいる。その一環として2隻の中型空母を建造しており、2012年までの実戦配備を目指している。
冒頭の、ハワイを基点に太平洋を米中で分割しようという中国海軍幹部の提案は、一個人の思いつきなどというものではなく、海洋侵出を狙うランドパワー中国の国家意志なのである。
第2列島線までが「中国の海」になれば、日本列島はその中にすっぽり入ってしまう。別に日本を軍事占領する必要はない。日本のシーレーンを抑え、中国の意のままになる傀儡政権を作って、日本の冨と技術を自由に搾取できれば、それで良い。
日本の経済力と技術力が自在に使えるようになったら、米海軍と渡り合える海軍建設も現実となるだろう。
太平洋侵出を狙う中国にとり、最大の突破口が台湾と沖縄である。
現在、沖縄の強力な米軍基地の抑止力によって、中国海軍は第一列島線の内側に閉じ込められている。もし米軍を沖縄から追い出すことができれば、第二列島線への侵出が容易になる。
そもそも中国は沖縄を日本固有の領土とは考えていない。
2005(平成17)年8月1日の中国誌『世界知識』は、「沖縄が日本の領土になったのは琉球王国に対する侵略の結果であり、第二次大戦後のアメリカからの返還も国際法上の根拠を欠き、『主権の帰属は未確定』だ」とする北京大学教授の論文を掲載した。
一研究者の論文という形でアドバルーンを上げ、周囲の反応を見る、という中国がよく使う手である。
確かに江戸時代に沖縄は、琉球王国として日本と清国の両方に服属する形をとっていた。しかし、明治27(1894)年の日清戦争後の談判で、清国は琉球を日本領として認め、以後、1世紀以上も沖縄は日本の正式な領土として国際的にも認められてきた。
沖縄の帰属に疑義を挟むなら、第2次大戦後に中国が侵略したチベット、ウィグルの方がはるかに「未確定」のはずだが、こちらは頬被りして、自国に都合の良い所だけ主張するのは、中国外交の通例である。
いずれにせよ、地政学的に見れば、第二列島線への拡張のために、台湾と沖縄を勢力圏に収めなければならない、というのが、中国にとって必然的な戦略なのである。
しかし、チベットやウイグルのように軍事占領して自国領に組み入れるというのは、前時代的なアプローチであり、国際社会からの反発など、リスクが大きい。
それよりも、中国にとって現実的なアプローチは、沖縄を日本から独立させて傀儡政権を樹立するというシナリオである。
仮に中国が本気で独立を画策するとしたら、第一弾として、沖縄の企業や土地などに投資をしてくるだろう。
次に、中国系の資本を進出させ、経済を握る。すると、中国人がたくさん定住するようになり、二世が生まれると彼らは日本国籍を取得できる。当然、投票もできるし、立候補もできる。
そこで、華人系の議員を擁立して議会を掌握し、経済と政治を握り、ゆくゆくは独立を図るという寸法である。
このシナリオに見事に合致したビジョンを公表しているのが民主党である。
同党が平成17(2005)年8月に改訂した「沖縄ビジョン」では、次のような提言をしている。
・沖縄において「自立・独立」型経済を作り上げる
・「一国二制度」を取り入れ、「東アジア」の拠点の一つとなる
・在沖縄米軍基地の大幅縮小
・東アジアと全県自由貿易地域(フリー・トレード・ゾーン)構想
・地域通貨の発行
・アジア地域における人的交流の促進
「独立」とは「日本からの独立」という意味ではない、とわざわざ断っているが、一国二制度、フリー・トレード・ゾーン、地域通貨とくれば、「経済的独立」そのものである。
これに民主党政権が主張している在日外国人の地方参政権、米軍基地の県外移転が実現すれば、「政治的独立」もぐっと近づく。
このような背景から見れば、民主党が「在日中国人も含めた外国人の地方参政権」という、一般国民には意味不明瞭な政策を強引に進めようとしている理由がよく分かる。
民主党が、中国に洗脳されたお人好しなのか、中国の意図を知ったうえで協力している確信犯なのか不明であるが、その政策が、中国の太平洋侵出の戦略と見事に符合しているのは事実である。
このような民主党が政権与党である限り、万一、中国が沖縄に傀儡政権を作ることになっても、その人材には事欠かないだろう。
[余談] 日本のマスコミはほとんど報道しないが、新中国成立60周年を迎える国慶節に、老朋友として村山富市元首相が招待されていた。
村山は、天安門楼上にあげてもらえた極少数の国賓の一人だった。いかに中国の国益のために尽力したかがわかる。
また、社民党の主張する米軍基地県外移転は、中国の戦略と見事に一致している。
一方、シーパワー・アメリカは、強大化しつつある中国の太平洋侵出に、どう対処しようとしているのか。
アメリカが世界ダントツのスーパーパワーであった時代は過ぎ、勢力圏を縮小しながら自国の権益を守る、という戦略に移行しつつある。
いまだ軍事力は強大だが、それを支える経済力において、長年の財政と貿易の双子の赤字で、日本や中国に大量の国債を買って貰って、やっと国が保てるという依存体質になってしまっている。
すでにフィリピンのスービック基地は撤退し、韓国軍の有事統制下指揮権も2012年に韓国政府に返還する。沖縄の米軍基地も段階的に縮小し、極東の軍隊はグアムに集約するという構想を立てている。
すなわち、アメリカ側も第二列島線への後退を考えているのである。
[参考資料]
官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転 田中 宇 2009年12月10日
中国は、こうしたアメリカの後退姿勢を読んでいるからこそ、冒頭に紹介した太平洋の米中分割構想を臆面もなく提案してくるのである。
中国が太平洋に向かって勢力を伸ばそうとし、アメリカが後退しつつある、という現実の中で、我が国はどう行動すべきか。
奥山氏は地政学的に見て、日本のとりうる選択肢は以下の3つしかないと指摘する。
第一は「アメリカとの同盟関係を継続する」という選択である。
後退しつつあるアメリカの軍事力を補うには、今以上の自主防衛努力が必要である。また、アメリカの経済的弱体化を支えるために、すでに200兆円も買ったアメリカ国債を今後も買い続けなければならない。
これでは日本の経済力も衰退していくだろうから、落ちぶれた老友同士で支え合っていくという構図になる。しかし、アメリカの方が借金を踏み倒して、去っていくという可能性は捨てきれない。
第二は「中国の属国になる」という選択肢である。
「いまでさえ日本はアメリカの子分なのであり、純粋な独立国ではない。親分がアメリカから中国に変わるだけで、今とたいして変わらない」という楽観的な見方がある。
しかし、独裁国家中国は、政府批判をしただけで投獄するような国である。その属国となれば、今の民主党内の小沢独裁のような状況が日本全体を覆うだろう。
その上、今の中国の反日歴史教育を当然、属国にも要求してくるだろうから、今後の日本人はすべて前科者として洗脳されていくことになる。
中国の属国となって幸せになるのは、傀儡政権と与党党員という特権階級だけだろう。
第三の選択は「日本独立」である。
アメリカや中国に従う子分ではなく、国際社会の中で主体的に動く国になることである。
「独立」といっても「孤立」ではない。地政学的に見れば、ユーラシア沿岸部の国々と同盟関係を結んでランドパワーに対抗するという手がある。日本と同じく中国の脅威にさらされている台湾、東南アジア、オーストラリア、さらにインドなどとの広範な同盟関係を結ぶ。
もう一つは、「敵の中に味方を作る」戦略である。チベット、ウイグルなどの独立運動を手助けしつつ、北京に対抗する上海や広東省を味方につける。中国がソ連の分裂崩壊の道を辿らない、という保証はない。
中国の経済成長が著しいとは言え、その国民総生産の総額はいまだ日本と同程度の規模で、それで日本の10倍以上の人口を養わなければならない。しかも国内に独立運動、地域間対立、階級対立を抱えている。人権と自由を求める声も強い。
そんな中国に脅かされていると言っても、幕末に西洋列強が押し寄せる中、見事に国家の独立を貫いた明治日本に比べれば、平成日本ははるかに恵まれた立場にある。
足りないのは、国際社会の中で独り立ちしてやっていこうという国民の意志と、地政学的な戦略眼である。
参考資料:国際派日本人養成講座