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ビートル
2005年03月12日
先日15万円で古いビートルを手に入れた。
当地では、4駆のダブルキャブのピックアップ(5人乗りのトラック)が人気で、そのタイプの新しい日本車が数多く走っている。価格は150万前後で、それを購入するシニアボランティア(SV)も多い。一方、日本国内では見ることもなくなった古い乗用車やジープタイプも多く使われている。私が購入したビートルはそのような古い一台である。
前回のマレーシアでは通勤距離が長く、信頼できる車が必要であり、整備の状況などもわからなかったために90万も出して三菱の協力で作っているマレーシア製プロトンの中古を購入した。しかし、今回は自宅から職場は近いこと、雨季には自転車での通勤が大変なこと、学校に自動車整備科があり、メンテナンスに関してはそこに勤務するSVの協力が得られる等の理由により、地元の人々が使うような程度の車を購入することに決めていた。それに、古くても魅力のある車があるために、ここまで来て日本車に乗ろうとも思わなかったということもある。
加えて、ピカピカの新車も良いが、古いジープタイプやビートルで通勤するのはローカルに溶け込むボランティア風情として実にいいなと思っていたのだ。
ここサワナケートでは中古車屋もほとんどないし、「売ります」と表示を出している車もほとんど見かけない。欲しい場合は口コミか、使ってなさそうな車の持ち主に直接聞いて見る他ないのだ。
当初、織物を作っている田舎の村々に出かけたいという女房の希望もあり、悪路に強いジープタイプを探した。しかし、ここのジープの幌は屋根だけで、側面のカバーがない。これでは未舗装の田舎道で埃まみれになることはシーニャのツゥクツゥクで出かけた結婚式でよくわかっていた。しかも、ほとんどのジープは日本製エンジンに乗せ換えてあり、それに伴ってセンターデフを取り去って2駆に改造されている。これではジープを買う意味がない。そんな時に偶然ビートルが見つかったのである。
ビートルのフォルムはさすがだ。飽きの来ない永遠のスタンダードである。こざかしい国産車とは違い、今見ても主張は褪せてはいない。設計に生き生きとしたフィロソフィーが見える。余談だが、日本ではスバル FF−1にそんな主張が見て取れると私は思っている(画像(右)では車両のボロさは見えない。実車も一見綺麗に見える)。
家具でもそうだが飽きの来ないデザインを生み出すことは至難である。手作りだから、無垢材であるから、自然塗料仕上げであるから良いと謳う家具になんと不細工で下品なものが多いことか。
安いだけにビートルの装備は日本では考えられない程ひどいものであった。しかし、これを気にしては乗れないのだ。
サイドブレーキ、スピードメーターは動かなかったし、ホーン、ウインカーは別のスイッチで作動させるようになっていた。多くの部分は適当な修理が行われていてガタガタ状態。スロットルワイヤー、クラッチワイヤーは目視寿命。ジープの場合もそうだったが当地ではこの程度のことはたいした問題ではないのだ。正直、参ったなと思う部分も無いではないが・・。
先日、時間が取れたため、ビートルの法的諸手続きを行った。任意保険加入、オートモービルインスペクション(車検)受験、ロードタックスの支払いである。
全ての手続きは、ラオス語しか通用しないローカルオフィスで行われるため、訳が分からず戸惑ううちに終了した。ラオスの方々は親切だから何とかなるのだ。
保険手続きは特に問題なく終了し、次に車検手続きを行った。
手数料を支払ったら灯火類のチェックを行うのだが、ウインカーのチェックでいきなりNGが出た。前日まで作動していたウインカーが今日は点滅しないのだ。おまけにブレーキランプも点かない。係りのお兄さんは修理をして出直せという。
そもそも車検を受けていない車で乗りつけ、不良箇所を直して出直すということ自体実に鷹揚ではあるのだが、それで良いことになっているから助かる。
自宅近くの修理屋に行くと運良く自動車専門の電気屋がいて、リレーの故障ということはすぐに判明した。そこで、電気屋のバイクに乗ってリレーを買いに行くのであるが、電気屋は後ろに乗れという。買った部品を私が支払うためである。
ウインカーはすぐに修理ができたが、ブレーキランプは点灯させるための部品が全て取り外されていて修理の時間がないというのだ(注1)。そして、修理屋のおっちゃんは、車検対策に驚きの技を教えてくれた。ブレーキテストの合図の時にポジションランプを点灯させればいいというのである。
ちょっと緊張しながら私はおっちゃんの秘策を携えて再度灯火試験に臨んだ。ウインカー試験、「R」「L」OK。そしてブレーキ試験である。合図と共に僕はポジショスイッチを1段引き、適当な間合いで戻した。赤いポジションランプが点いているはずである。もう一度合図と共に繰り返した。汗が出てきた。若い担当はニヤニヤしながらOKといい、バックランプの合図を出した。合格!灯火試験終了である。書類の灯火部分には全てOKのチェックが記入されたのである。
次の難関はブレーキ試験である。私のビートルはパーキングブレーキも作動しないからである。ブレーキ試験は車輪を所定の位置に置き、前方のディスプレーの表示に従ってブレーキを踏み込めばいいのだが、問題はパーキングブレーキである。私は思い切って作動しないパーキングブレーキの代わりに普通のブレーキペタルを踏んだ。結果、再試験。結構動揺した。しかし、問題はブレーキの踏み込みが足りないことによる制動力不足だった。係官はパーキングブレーキが作動しないのに気が付いたが「ノーパーキングブレーキか」というだけで問題にしなかった。ブレーキテストなのにブレーキランプが点灯しないことにもお咎めはなかった。無事車検をパスし、認定ステッカーをウインドシールドに貼り付けた。ラオスの鷹揚なシステムには大いに感動した。
私の業務においても、ローカルの方に目くじら立てて日本の標準を押し付けてはいけないのだ。この鷹揚世界を1人の力で変える事は2年程度では絶対に不可能だと確信した(注2)。
ロードタックスオフィスの手順も良く分からないまま無事終了。2005年度の納税済みステッカーを同じくウインドシールドに貼り付けた。全ての手続きは無事終了し、どこからおまわりさんが飛び出してきて停車を命じられても問題ないというような自信の持った運転態度で岐路に着いたのである(通常サワナケートではこのようなことはあり得ない)。
このような車に乗ること自体、JICAの安全担当者は、「こういうSVがいるるから困るんだよね。こういうのは我ままだから言っても聞く耳持たないしなぁ」などと、迷惑そうにぼやくに違いないのだ。しかし、このことで私は多くのラオスの方々とエキサイティングで生き生きとした時間を過ごし、彼らを理解することができたと思っている。この共生感は実に嬉しいのだが・・。
注1)
車検後に会った前のオーナーは、ブレーキランプは正常に作動していたという。おそらく修理屋がビートルのブレーキシステムを理解していないのが原因で、前オーナーがそれまで使っていた電装屋に修理依頼をすれば簡単に直るということであった。至急直す予定である。
注2)
このような表現は、シニアボランティアとして問題があるかもしれない。その状況下で技術移転を行っていかなければならないのだから。しかし、このセンテンスに関してはアジア的鷹揚さを持って見逃して頂きたい。
付録
ところでビートルである、自動車担当のSVの方にポイントギャップと点火時期を調整してもらったため、エンジンの調子は明らかに良くなった。古いものだからパワーの低下は否めないが近場を走り回るには充分である。サスストロークは短いが硬いために、でこぼこ道でも底突きをしないのは助かっている。そして、なによりも飽きの来ない愛着の持てるフォルムが良い。
水平対向4気筒エンジンがリアタイヤの間の空間にコンパクトに収まっているが、ぎっしりと詰め込んであるという感じはない。サスペンションはトーションバーのためにスペース効率が高くエンジンルームの拡大に寄与している。非常にオリジナリティの高い合理設計である。最近の車作りでは、徹底した量産によるコストダウンを狙っているためにこのようにユニークな設計の車が登場する機会はほとんど無いだろう。古きよき時代の車だったのかもしれない。
現在はまだ雨季ではないので私はワッセワッセとペタルを踏み自転車通勤を続けている。
当地では、4駆のダブルキャブのピックアップ(5人乗りのトラック)が人気で、そのタイプの新しい日本車が数多く走っている。価格は150万前後で、それを購入するシニアボランティア(SV)も多い。一方、日本国内では見ることもなくなった古い乗用車やジープタイプも多く使われている。私が購入したビートルはそのような古い一台である。
前回のマレーシアでは通勤距離が長く、信頼できる車が必要であり、整備の状況などもわからなかったために90万も出して三菱の協力で作っているマレーシア製プロトンの中古を購入した。しかし、今回は自宅から職場は近いこと、雨季には自転車での通勤が大変なこと、学校に自動車整備科があり、メンテナンスに関してはそこに勤務するSVの協力が得られる等の理由により、地元の人々が使うような程度の車を購入することに決めていた。それに、古くても魅力のある車があるために、ここまで来て日本車に乗ろうとも思わなかったということもある。
加えて、ピカピカの新車も良いが、古いジープタイプやビートルで通勤するのはローカルに溶け込むボランティア風情として実にいいなと思っていたのだ。
ここサワナケートでは中古車屋もほとんどないし、「売ります」と表示を出している車もほとんど見かけない。欲しい場合は口コミか、使ってなさそうな車の持ち主に直接聞いて見る他ないのだ。
当初、織物を作っている田舎の村々に出かけたいという女房の希望もあり、悪路に強いジープタイプを探した。しかし、ここのジープの幌は屋根だけで、側面のカバーがない。これでは未舗装の田舎道で埃まみれになることはシーニャのツゥクツゥクで出かけた結婚式でよくわかっていた。しかも、ほとんどのジープは日本製エンジンに乗せ換えてあり、それに伴ってセンターデフを取り去って2駆に改造されている。これではジープを買う意味がない。そんな時に偶然ビートルが見つかったのである。
ビートルのフォルムはさすがだ。飽きの来ない永遠のスタンダードである。こざかしい国産車とは違い、今見ても主張は褪せてはいない。設計に生き生きとしたフィロソフィーが見える。余談だが、日本ではスバル FF−1にそんな主張が見て取れると私は思っている(画像(右)では車両のボロさは見えない。実車も一見綺麗に見える)。家具でもそうだが飽きの来ないデザインを生み出すことは至難である。手作りだから、無垢材であるから、自然塗料仕上げであるから良いと謳う家具になんと不細工で下品なものが多いことか。
安いだけにビートルの装備は日本では考えられない程ひどいものであった。しかし、これを気にしては乗れないのだ。
サイドブレーキ、スピードメーターは動かなかったし、ホーン、ウインカーは別のスイッチで作動させるようになっていた。多くの部分は適当な修理が行われていてガタガタ状態。スロットルワイヤー、クラッチワイヤーは目視寿命。ジープの場合もそうだったが当地ではこの程度のことはたいした問題ではないのだ。正直、参ったなと思う部分も無いではないが・・。
先日、時間が取れたため、ビートルの法的諸手続きを行った。任意保険加入、オートモービルインスペクション(車検)受験、ロードタックスの支払いである。
全ての手続きは、ラオス語しか通用しないローカルオフィスで行われるため、訳が分からず戸惑ううちに終了した。ラオスの方々は親切だから何とかなるのだ。
保険手続きは特に問題なく終了し、次に車検手続きを行った。
手数料を支払ったら灯火類のチェックを行うのだが、ウインカーのチェックでいきなりNGが出た。前日まで作動していたウインカーが今日は点滅しないのだ。おまけにブレーキランプも点かない。係りのお兄さんは修理をして出直せという。
そもそも車検を受けていない車で乗りつけ、不良箇所を直して出直すということ自体実に鷹揚ではあるのだが、それで良いことになっているから助かる。
自宅近くの修理屋に行くと運良く自動車専門の電気屋がいて、リレーの故障ということはすぐに判明した。そこで、電気屋のバイクに乗ってリレーを買いに行くのであるが、電気屋は後ろに乗れという。買った部品を私が支払うためである。
ウインカーはすぐに修理ができたが、ブレーキランプは点灯させるための部品が全て取り外されていて修理の時間がないというのだ(注1)。そして、修理屋のおっちゃんは、車検対策に驚きの技を教えてくれた。ブレーキテストの合図の時にポジションランプを点灯させればいいというのである。
ちょっと緊張しながら私はおっちゃんの秘策を携えて再度灯火試験に臨んだ。ウインカー試験、「R」「L」OK。そしてブレーキ試験である。合図と共に僕はポジショスイッチを1段引き、適当な間合いで戻した。赤いポジションランプが点いているはずである。もう一度合図と共に繰り返した。汗が出てきた。若い担当はニヤニヤしながらOKといい、バックランプの合図を出した。合格!灯火試験終了である。書類の灯火部分には全てOKのチェックが記入されたのである。
次の難関はブレーキ試験である。私のビートルはパーキングブレーキも作動しないからである。ブレーキ試験は車輪を所定の位置に置き、前方のディスプレーの表示に従ってブレーキを踏み込めばいいのだが、問題はパーキングブレーキである。私は思い切って作動しないパーキングブレーキの代わりに普通のブレーキペタルを踏んだ。結果、再試験。結構動揺した。しかし、問題はブレーキの踏み込みが足りないことによる制動力不足だった。係官はパーキングブレーキが作動しないのに気が付いたが「ノーパーキングブレーキか」というだけで問題にしなかった。ブレーキテストなのにブレーキランプが点灯しないことにもお咎めはなかった。無事車検をパスし、認定ステッカーをウインドシールドに貼り付けた。ラオスの鷹揚なシステムには大いに感動した。私の業務においても、ローカルの方に目くじら立てて日本の標準を押し付けてはいけないのだ。この鷹揚世界を1人の力で変える事は2年程度では絶対に不可能だと確信した(注2)。
ロードタックスオフィスの手順も良く分からないまま無事終了。2005年度の納税済みステッカーを同じくウインドシールドに貼り付けた。全ての手続きは無事終了し、どこからおまわりさんが飛び出してきて停車を命じられても問題ないというような自信の持った運転態度で岐路に着いたのである(通常サワナケートではこのようなことはあり得ない)。
このような車に乗ること自体、JICAの安全担当者は、「こういうSVがいるるから困るんだよね。こういうのは我ままだから言っても聞く耳持たないしなぁ」などと、迷惑そうにぼやくに違いないのだ。しかし、このことで私は多くのラオスの方々とエキサイティングで生き生きとした時間を過ごし、彼らを理解することができたと思っている。この共生感は実に嬉しいのだが・・。
注1)
車検後に会った前のオーナーは、ブレーキランプは正常に作動していたという。おそらく修理屋がビートルのブレーキシステムを理解していないのが原因で、前オーナーがそれまで使っていた電装屋に修理依頼をすれば簡単に直るということであった。至急直す予定である。
注2)
このような表現は、シニアボランティアとして問題があるかもしれない。その状況下で技術移転を行っていかなければならないのだから。しかし、このセンテンスに関してはアジア的鷹揚さを持って見逃して頂きたい。
付録
ところでビートルである、自動車担当のSVの方にポイントギャップと点火時期を調整してもらったため、エンジンの調子は明らかに良くなった。古いものだからパワーの低下は否めないが近場を走り回るには充分である。サスストロークは短いが硬いために、でこぼこ道でも底突きをしないのは助かっている。そして、なによりも飽きの来ない愛着の持てるフォルムが良い。
水平対向4気筒エンジンがリアタイヤの間の空間にコンパクトに収まっているが、ぎっしりと詰め込んであるという感じはない。サスペンションはトーションバーのためにスペース効率が高くエンジンルームの拡大に寄与している。非常にオリジナリティの高い合理設計である。最近の車作りでは、徹底した量産によるコストダウンを狙っているためにこのようにユニークな設計の車が登場する機会はほとんど無いだろう。古きよき時代の車だったのかもしれない。
現在はまだ雨季ではないので私はワッセワッセとペタルを踏み自転車通勤を続けている。
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